魔法学園の学園長というだけありシディルさんの屋敷はかなり大きかった。
「さて、話というのは先ほども言った通りそのハイドキャットのことなのじゃが・・・失礼な問いになるかもしれんが率直に聞こう。アキツグ君、その子をわしに譲る気はないかね?もちろん相応の対価を支払うつもりじゃ。わしなら大抵のものは用意できるぞ?」
いきなりか。確かにハイドキャットが希少だというのは聞いているから、その可能性は考えていた。変に回りくどいことをされるよりは対応しやすい。
俺はちらっとロシェの方に視線を送る。すると『まさか応じるつもりじゃないでしょうね?』という怒気の篭った視線が返ってきた。いや、念のためにロシェの意思を確認しようと思っただけなんだが、意図を汲み取っては貰えなかったようだ。「申し訳ありませんが、ロシェは大切な仲間なので」
「そうか、残念じゃな。では代わりと言ってはなんじゃが、うちの孫と交換というのはどう<バシッ!>いたた、じょ、冗談じゃよクレア」 「笑えません!」シディルさんの発言に割と食い気味でクレアさんが突っ込みを入れていた。
確かに酷いことを言っていたが、クレアさんの突っ込みも割と容赦ないな。これは恐らくだが今回だけでなく普段からこういうやり取りをしていそうな気がする。「やれやれ、冗談はさておいてじゃな、そのハイドキャットの子を調べさせて欲しいのじゃよ。もちろん危害を加えるようなことはせんと約束しよう。わしの研究室で映像記録や魔力波を通しての生体情報の採取などをさせて欲しいのじゃ」
「なぜわざわざ俺達に?シディルさんなら俺達に頼らずともそれこそ他から連れて来て貰うこともできるのでは?」 「ふむ。お主はその子の価値を見誤っておるようじゃの。現在、わしの知る限りで世界にハイドキャットを人が使役している例は2人だけじゃ。もちろんその2人にも交渉は試みたのじゃが、断られてしまったのじゃ」世界中でたった二人!?確かに珍しいとは聞いていたが、そんなレベルとは完全に予想外だった。あの時クロヴさんは怪我したロシェを割と平然とした顔で連れて来ていたし、従魔登録を担当したギルド職員さんも驚いてはいたが平然を装って仕事はしていたので、普通に
そこまでする必要はなかったかもしれないが、何となく屋敷の中だとシディルさんに聞かれてしまうのではないかと思ったのだ。 それにしても調査依頼か、ロンディさんの時を思い出すなぁ。理由が魔道具の発展のためだったり、こちらが弱みを握られてるっていうところも同じだし。違いは対象が俺じゃなくてロシェってところだけど。「さて、どうしようか。シディルさんも話した感じ友好的だし、断ってもロシェのことを言いふらしたりするような人ではなさそうだけど。調べられた結果ロシェ達に不利益な情報が広まる可能性もあるよな?」 『無いとは言い切れないでしょうね。私達を見つけるようなものが作れたりするのかもしれないし』 「そうだよなぁ。姿を消せる原理を知ろうとしているわけだし、それを応用すればそういうこともできそうだよな」 「そうですね。当然リスクはあると思います。ただ分からないところはこちらで悩んでも仕方ないですし、聞いてみれば良いのではないですか?」 「・・・そうだな。もう少し色々聞いてみてそれでも危険だと思ったら悪いけど断わろうか」結論が出たところで屋敷に戻り、シディルさんに先ほど話していたリスクについて聞いてみることにした。「ふむ。ハイドキャットという種の優位性へのリスクのぅ。ハイドキャットの仲間がいるお主達からすれば当然の懸念じゃな。では、調査結果やその後の研究の成果は世間には公表しないということでどうじゃ?わしが個人的に研究する資料とするだけであれば、ハイドキャットたちに危険が及ぶこともなかろう」 「えっ?それでいいんですか?魔道具の発展のための研究なのでは?」 「もちろんできるのであればそうしたいところじゃが、それではお主達は納得せんじゃろう?それに一番の目的はわしの探求心を満たすためじゃからの。わしは今でこそ学園長なぞやっておるが、もともとは魔道具の研究者での。若い頃に解明できなかった姿隠の原理が未だに心残りで、今でも趣味で細々と研究を続けておったのじゃ。じゃからそれでお主達が納得してくれるのなら安いものよ」シディルさんは昔を懐かしむように自分の過去の話をしてくれた。 隣で聞いていたクレアさんは驚いたような納得したような表情をしている。
シディルさんの依頼を受けたことで、数日はマグザの街に留まることになった。 宿に関してはシディルさんの屋敷を使わせて貰えることになったため、エフェリスさん達に礼を告げて場所を移していた。 エフェリスさんは「気にしなくて良いのに」などと言ってくれていたが、流石に理由もなくお世話になり続けるのも悪いし、なるべくロシェの近くに居たほうが良いだろうという判断でもある。ちなみにミルドさんとエリネアさんは片付けが終わったらまたロンデールに戻るらしい。 とはいえ、四六時中側についていても仕方ないし何より俺もカサネさんも特殊なスキル持ちだ。シディルさんの研究室がどんなものかは分からないが、俺達が中に入ることでそれに感付かれるとまた話がややこしくなる気がしたので、ロシェとは別行動をとることになった。 ・・・カサネさんは調査に興味があるみたいで少々残念そうにしていたが。 そして俺達は今、街外れにある森に来ていた。 冒険者ギルドに森の魔物の討伐依頼が出ていたので、とある魔道具のお試しも兼ねて受けてきたのだ。このあたりには強い魔物は出ないのだが、最近森の魔物が増えてきているらしく、定期的に冒険者に依頼を出しているらしい。 とある魔道具というのはロシェの調査依頼の報酬として受け取ったシディルさん特製の魔道具である。俺達からすると何もしていないのに報酬だけ受け取っている感じなので申し訳なさはあるのだが、当のロシェ自身に『気にせず行ってきなさい』と言われてしまっていた。 森の奥に進んでいくと確かに怪しい気配が増えてきた。魔物同士が争っているような音も時折聞こえてくる。「この辺で良さそうですね。あまり奥に行って囲まれたりしても困りますし」 「そうだな。俺はここでもちょっと怖いくらいだけど」 「ふふっ、すぐに慣れますよ。アキツグさんの魔法の腕も上がってきてますから」 「そう願いたいな。戦わずに済むならそのほうが良いんだけど」そう話しつつも、俺は早速魔道具を近づいてきた魔物に向けて狙いを定めた。気を落ち着けて慎重に引き金を引くと、魔道具から雷の弾丸が撃ち出された。 弾丸は撃ち出された勢いのままに魔物の胴体を貫通し、その魔物は
目が覚めると一面が真っ白な世界だった。 「なんだここは?俺は何でこんなところに?」 明らかに普通の場所ではない。スモークなどを焚いているのだとしても広すぎる。 目覚める前のことを思い出そうとするが記憶が朧気で思い出せない。 自分の名前、沢渡観世(さわたりあきつぐ)、25歳、職業:商人。 大丈夫。自分のことは覚えている昔の記憶も思い出せる。 分からないのは直近の記憶だけのようだ。「そこの人間」そんな風に自問自答しているとどこからか声が聞こえた。「誰だ?」 「こっちだ」声を頼りに後ろに振り返った途端、そのまま尻もちをついた。 そこには巨大な観音菩薩の仏像が浮いていたのだ。「か、観音菩薩?なんでこんなところに?というかさっきまでなかったよな?どうなってるんだいったい・・・」 「お前を呼んだのは私だ」 「し、しゃべった!?」再度、驚きの声が出る。確かに声は目の前の像から聞こえている。 誰かが揶揄っているのかと周囲を回ってみたが誰も居ない。「納得したか。では、本題に入ろう」 「本題?」 「そうだ。いきなりでは信じられないだろうがお前は死んだ」 「は?俺が死んだって、何の冗談だ?」 「冗談ではない。お前は旅の途中、暴走してきた車に撥ねられて即死だった」車に?そう言われて記憶に引っかかるものがあった。突如坂を乗り越えてこちらに迫ってくる車の映像がフラッシュバックする。「ぐっ!今のは、、まさかあれが死ぬ間際の?」 「思い出したか。では、お前には二つの選択肢がある」 「待て待て、自分が死んだってことすらまだ信じられないのに。突然選択肢とか言われても・・・」 「そうだろうな。好きなだけ悩んで構わない。選択肢は天国へ行くか異世界へ行くかだ」 「異世界?いや、天国はまだ分かる。死んだら行くって言われてるからな。異世界ってなんだ?」唐突に聞こえた不自然な単語に思わず疑問が声に出た。「お前は選ばれた。輪廻の均衡を維持するための例外として。とはいえ元の世界に返すわけには行かない。だから別の世界で生きよということだ」 「輪廻の均衡ってなんだ?」 「詳しくは話せぬが、世には極稀にまだ死ぬべきでない者が早死にすることがある。そのような者達を全て死後の世界へ送ってしまうと輪廻に歪みが生じてしまう。それを防ぐため選ばれた者に生を謳歌させ均衡
「う、うぅん」目が覚めるとそこは森の中だった。中とはいっても直ぐ側に街道のようなものが見える。森の端のほうなのだろう。 神のような存在との会話はまだ覚えている。恐らく意味も分からずこの世界に降り立ってまた混乱しないようになのだろう。まずは自身の状態を確認する。確かにこの世界の基本的な知識が分かる。 次に持ち物なども確認してみる。 服装はこの世界の旅人の標準的なもののようだ。 持ち物は何やら色々入った背負い鞄を持っている。 どうやら死んだときに持っていたのと同程度の品物があるようだ。 ありがたい。これならうまく売ることさえできれば一先ず生活に困ることはないだろう。あとは、能力か。魔法は残念ながら使えない様だ。 スキルはあるな。良かった、こんな世界で魔法もスキルもなかったら生きていく自信を無くすところだった。 早速スキルの内容を確認してみる。-------------------------------- スキル:わらしべ超者Lv1 自分の持ち物と相手の持ち物を交換してもらうことができる。交換レートはスキルレベルと相手の需要と好感度により変動する。 スキル効果により金銭での取引、交換はできない。--------------------------------・・・・・・は? 信じられない気持ちで見直すが何度見ても結果は変わらない。 金銭での取引はできない?なんだそれ、商人として終わってないか? いや、確かに田舎の村では農作物と薬や消耗品などを物々交換していたこともあるが、基本は金銭での取引だった。 この世界の常識と照らし合わせてみても基本は金銭取引だ。 それになんだ交換レートは好感度により変動するって! いやまぁ、嫌いな人からは買いたくないとか好きな人には奮発するとか分からなくもないけど、これどの程度変わってくるんだ? スキルの詳細を知ろうとしても情報は出てこない。とりあえずどこかの村や町で試してみるしかないか。 何だかいきなり商人としての道に影が差した気がして気落ちするが、まずは生活基盤を何とかしないとそれ以前の問題になってしまう。 手持ちの食糧も心もとないしまずは町か村を見つけないとな。 そう考えてまずは街道に出て周りを見渡してみる。 幸いなことに視界の端の方に村のようなものが見えた。 スキルはともかく
金がない。というか金があってもたぶん払えない。 死ぬ前に持っていた向こうの通貨は宝石に変わっていた。 それに宿代の支払いは恐らく商取引に該当するだろう。(・・・どうすんだこれ?宿屋もだが食事や道具の補充などあらゆる支払いができないってことだよな?・・・物々交換?宿代や食事代の支払いを?食事はともかく宿泊は物じゃないよな。家自体を交換して貰うことはできるかもしれないが、今の持ち物じゃ流石に足りないだろう。)考えれば考えるほど今後に不安が募っていくが、現状通貨を得る方法がない以上できることを試してみるしかないか。 そう考えて食堂兼宿屋となっている建物に入る。「いらっしゃい。外のお客さんとは珍しいな」中に入ると主人と思われる男が声を掛けてくる。「あ、あぁ。食事と宿を頼みたいんですが」 「1泊20リム、食事付きなら30リムだ」 「あ~その、支払いなんだがこれでお願いできますか?」そう言いつつ、小粒の宝石を出してみる。「いや、そんな物出されてもな」 「そ、そうですか。俺は商人なんですが、さっき門番の人にこの村では薬が不足気味だと聞きました。そこで、この薬では宿代の代わりにはならないでしょうか?」そういって今度は何種類かの薬を出してみる。「いや、薬が不足気味なのは確かなんだが・・・やはり現金で払ってもらわないと困るな」先ほどの宝石よりかなり興味は引けたようだがやはり結果はダメだった。 物での支払いを拒否しているのか、スキルの影響で拒否されているのか判断が難しいが、間があったことから考えると後者の可能性の方が高そうな気がする。 仕方がないので、別の方法を試してみることにする。「分かりました。。変なことを聞いてすみません。これは詫びとして取っておいてください」そう言って主人の目線から欲していたと思われる薬を渡す。「え?いいのか?いやでも流石に悪いような・・・」 「いえいえ。当てができたらまた来ます」そう言ってそのまま宿屋を後にした。 もちろん意味もなくタダで薬を渡したわけではない。 主人に先に利益を齎すことで好感度を上げておき、相手の好意で1泊泊めて貰えないかと考えたのだ。最悪食堂の隅を借りれるだけでも外で野宿よりはマシだろう。 何だか商売の裏道や抜け道を探しているようで多少の罪悪感があるが身の安全には代えられない。 まぁ、こ
「ん?さっきの商人さんじゃないか。商売は上手く言ったかい?」泊まるだけの稼ぎがあったかと聞きたいのだろう。 生憎商売ができても金銭は手に入らないのだが。「そのことなんですが、やはり薬での支払いはできませんか?」 「あ、いやさっきは悪かったな。もちろん構わないよ。貰った薬の効き目も良かったしな。とりあえずそれで1泊分にしておくよ。追加はどうする?と言ってもこの村に長居するほど見るものもないと思うけどな」宿屋の主人はあっさりと前言を撤回した。その上先に渡した薬も代金に含めてくれるという。やはりスキルの影響があったということだろう。 何にしろこれで野宿は避けられそうだ。「そうですね。道具屋と雑貨屋は今日回ったし、次はロンデールに行ってみようかと思っているのですが」 「ロンデールか。まぁ、ここから次に向かうならそこか南のハイン村のどっちかだろうな」南にも村があるのかそっちの情報も聞いておきたいな。「とりあえず1泊で。あと良ければロンデールやハイン村のことについて教えて貰えませんか?」 「あぁ、良いぜ。ロンデールはこの辺だと大きめの町だな。近くにダンジョンの入り口があるから冒険者が結構多い。ダンジョン産のアイテムも出回るから商人ギルドもあるし商店も多いな。」ダンジョン。魔物が巣食う洞窟や遺跡のことだったか。現実味がないがやはりそういうものがあるんだな。なるべく近寄りたくないが。 商人ギルドには早めに行ってできるなら加入しておきたいな。知識によるとギルドカードは身分証にもなるようだし、横の繋がりを得られるのも重要だ。あとギルド発行の仕事を受けられたりもするんだっけ。・・・あれ?報酬って当然現金だよな?俺の場合どうなるんだろう? まぁ、そこも試してみれば分かるか。「ハイン村は大きな牧場があるのが特徴でな。ホワイトブルやフラワーシープなんかの牧畜をやってる。小さいが冒険者ギルドもあるぞ」ホワイトブルは草食で大きめの体をしている。肉は部位ごとに触感や味が異なりどれも美味しいらしい。 メスのホワイトカウの方はミルクが取れてそちらも美味しいらしい。 フラワーシープは花のように様々な色の体毛を持つ動物で貴族のドレスなどの材料として重宝されているらしい。 肉やミルクは日持ちが厳しそうだが毛糸なら取引に使えそうだな。「ハイン村には商人ギルドはないんです
村の入り口に着くとエリネアさんが一人で待っていた。(う~ん。口数も少ないし3人の中で一番話し掛け辛いんだよな。)とはいえ無視するわけにもいかない。 「お待たせしてすみません。他のお二人は?」 「・・・いえ、二人はまだ支度中です。もうそろそろ来ると思います」 「そうでしたか。そういえばミルドさんとエリネアさんはチームで活動されてるんですか?」 「・・・えぇ」一応答えてはくれるが、目はそらされているし避けられている気がする。呼び方などからそうかなと思ったが、やはり二人はチームで活動しているようだ。 そして会話が途切れる。(エリネアさんも話し掛けられたくないみたいだしおとなしく待つか)少しするとハロルドさんとミルドさんが戻ってきた。「いや~すみません。ついいつもの調子で話していたら遅くなってしまいました」 「いえいえ、お気になさらず」そうして、4人でロンデールに向けて出発したのだった。 出発してしばらくは平和そのもので特に何かに出会うこともなく順調に進んでいた。「リブネントに来るときもこの街道を通られたんですよね?危険な動物に遭遇したりはしましたか?」 「いえ、この辺では滅多に会うことはありませんよ。森の奥に行けば話は別でしょうが、街道にでて何かすれば狩られることは向こうも理解しているんでしょうね」 「そうですか。安心しました」 「ははっ。仮に出てきてもミルドさんとエリネアさんなら問題なく対処してくれます。お二人とも優秀な冒険者ですから」 「あまり煽てないでくれ。俺たちはまだCランクだ。」 「いえいえ、その歳でCランクは十分優秀ですよ。本来ならこんな危険の少ない街道の護衛を依頼するべきではないのでしょうが・・・」 「前にも言ったが気にしないでくれ。あなたは命の恩人だ。護衛料も十分な額を貰えているし問題はない」 「と、こんな感じでしてね。私としても信頼のおける人間に護衛して貰いたいというのもあってついつい甘えてしまっているんですよ」なるほど。これまでのやり取りでこの3人には何か連帯感の様なものを感じていたが、そういう理由があったのか。 ミルドさんが言ったCランクというのは冒険者ギルドのランクのことだろう。A~FランクまでありAが一番高いらしい。Cランクということは中堅の上の方くらいになるのだろうか。「命の恩人ですか。ちなみ
夜の番はミルドさんとエリネアさんが交代で行ってくれることになった。 自分もそのくらいは手伝いたいと提案はしてみたのだが、一晩くらいなら問題ないので休んでおいてくれとやんわり断られてしまった。 まぁ、二人からすれば急に増えた人間に任せられないというのは当然かもしれない。ハロルドさんは馬車の中で休むようだ。 俺も焚火の側に厚手の敷物を敷いて寝ることにした。 ミルドさんからテントを使っても良いと言われたがさすがにそこまで甘えるわけにはいかない。幸いにも夜でも寒いというほどにはならなかったので、寝るのに支障はなかった。 次の日、物音で目が覚めるとミルドさんがテントを片付けようとしているところだった。「おはようございます」 「あぁ、起きたか。おはよう。朝食を食べたら早々に出発しよう」 「分かりました」見るとハロルドさんも起きていて朝食と思われるパンと飲み物をもってきていた。 そして各自朝食を取るとロンデールに向けて出発する。 道中時間もあったので商業ギルドのことをハロルドさんに聞いてみることにした。「そういえば、ロンデールには商業ギルドがあると聞いたのですが、ハロルドさんは所属されているんですよね?」 「えぇ、もちろん。ギルドの所属有無の差は大きいですからね。年会費は必要ですが、ギルド所属であれば入国、入町税の軽減やギルドで扱っている商品の融通など色々な恩恵がありますからね。まぁ、私の場合は他国まで仕入れに行くことはあまりありませんが」 「実は俺はまだ所属していないのですが、所属する際にはどのような手続きが必要なのでしょうか?」 「そうだったんですか。なに、難しいことはありませんよ。登録情報の記載と登録金を支払うだけです。年会費についても各町にあるギルドであればどこでも支払いが可能ですし」ふむ。思ったより手続きは簡単なようだ。だが、まったく審査がないのは大丈夫なのだろうか?「なるほど。ですが、それだと恩恵目当てに商人以外の人が登録したりもするんじゃないですか?」 「そうですね。ですので、年会費を払う際に実績の確認があるんです。商人ギルドからの依頼やギルドを介した取引など一定の実績がなかった場合は権利を剝奪されて、何らかの理由がないと再登録はできなくなります。 またそういう情報は他のギルドにも連携されるので本人の立場が厳しいものになります
シディルさんの依頼を受けたことで、数日はマグザの街に留まることになった。 宿に関してはシディルさんの屋敷を使わせて貰えることになったため、エフェリスさん達に礼を告げて場所を移していた。 エフェリスさんは「気にしなくて良いのに」などと言ってくれていたが、流石に理由もなくお世話になり続けるのも悪いし、なるべくロシェの近くに居たほうが良いだろうという判断でもある。ちなみにミルドさんとエリネアさんは片付けが終わったらまたロンデールに戻るらしい。 とはいえ、四六時中側についていても仕方ないし何より俺もカサネさんも特殊なスキル持ちだ。シディルさんの研究室がどんなものかは分からないが、俺達が中に入ることでそれに感付かれるとまた話がややこしくなる気がしたので、ロシェとは別行動をとることになった。 ・・・カサネさんは調査に興味があるみたいで少々残念そうにしていたが。 そして俺達は今、街外れにある森に来ていた。 冒険者ギルドに森の魔物の討伐依頼が出ていたので、とある魔道具のお試しも兼ねて受けてきたのだ。このあたりには強い魔物は出ないのだが、最近森の魔物が増えてきているらしく、定期的に冒険者に依頼を出しているらしい。 とある魔道具というのはロシェの調査依頼の報酬として受け取ったシディルさん特製の魔道具である。俺達からすると何もしていないのに報酬だけ受け取っている感じなので申し訳なさはあるのだが、当のロシェ自身に『気にせず行ってきなさい』と言われてしまっていた。 森の奥に進んでいくと確かに怪しい気配が増えてきた。魔物同士が争っているような音も時折聞こえてくる。「この辺で良さそうですね。あまり奥に行って囲まれたりしても困りますし」 「そうだな。俺はここでもちょっと怖いくらいだけど」 「ふふっ、すぐに慣れますよ。アキツグさんの魔法の腕も上がってきてますから」 「そう願いたいな。戦わずに済むならそのほうが良いんだけど」そう話しつつも、俺は早速魔道具を近づいてきた魔物に向けて狙いを定めた。気を落ち着けて慎重に引き金を引くと、魔道具から雷の弾丸が撃ち出された。 弾丸は撃ち出された勢いのままに魔物の胴体を貫通し、その魔物は
そこまでする必要はなかったかもしれないが、何となく屋敷の中だとシディルさんに聞かれてしまうのではないかと思ったのだ。 それにしても調査依頼か、ロンディさんの時を思い出すなぁ。理由が魔道具の発展のためだったり、こちらが弱みを握られてるっていうところも同じだし。違いは対象が俺じゃなくてロシェってところだけど。「さて、どうしようか。シディルさんも話した感じ友好的だし、断ってもロシェのことを言いふらしたりするような人ではなさそうだけど。調べられた結果ロシェ達に不利益な情報が広まる可能性もあるよな?」 『無いとは言い切れないでしょうね。私達を見つけるようなものが作れたりするのかもしれないし』 「そうだよなぁ。姿を消せる原理を知ろうとしているわけだし、それを応用すればそういうこともできそうだよな」 「そうですね。当然リスクはあると思います。ただ分からないところはこちらで悩んでも仕方ないですし、聞いてみれば良いのではないですか?」 「・・・そうだな。もう少し色々聞いてみてそれでも危険だと思ったら悪いけど断わろうか」結論が出たところで屋敷に戻り、シディルさんに先ほど話していたリスクについて聞いてみることにした。「ふむ。ハイドキャットという種の優位性へのリスクのぅ。ハイドキャットの仲間がいるお主達からすれば当然の懸念じゃな。では、調査結果やその後の研究の成果は世間には公表しないということでどうじゃ?わしが個人的に研究する資料とするだけであれば、ハイドキャットたちに危険が及ぶこともなかろう」 「えっ?それでいいんですか?魔道具の発展のための研究なのでは?」 「もちろんできるのであればそうしたいところじゃが、それではお主達は納得せんじゃろう?それに一番の目的はわしの探求心を満たすためじゃからの。わしは今でこそ学園長なぞやっておるが、もともとは魔道具の研究者での。若い頃に解明できなかった姿隠の原理が未だに心残りで、今でも趣味で細々と研究を続けておったのじゃ。じゃからそれでお主達が納得してくれるのなら安いものよ」シディルさんは昔を懐かしむように自分の過去の話をしてくれた。 隣で聞いていたクレアさんは驚いたような納得したような表情をしている。
魔法学園の学園長というだけありシディルさんの屋敷はかなり大きかった。「さて、話というのは先ほども言った通りそのハイドキャットのことなのじゃが・・・失礼な問いになるかもしれんが率直に聞こう。アキツグ君、その子をわしに譲る気はないかね?もちろん相応の対価を支払うつもりじゃ。わしなら大抵のものは用意できるぞ?」いきなりか。確かにハイドキャットが希少だというのは聞いているから、その可能性は考えていた。変に回りくどいことをされるよりは対応しやすい。 俺はちらっとロシェの方に視線を送る。すると『まさか応じるつもりじゃないでしょうね?』という怒気の篭った視線が返ってきた。いや、念のためにロシェの意思を確認しようと思っただけなんだが、意図を汲み取っては貰えなかったようだ。「申し訳ありませんが、ロシェは大切な仲間なので」 「そうか、残念じゃな。では代わりと言ってはなんじゃが、うちの孫と交換というのはどう<バシッ!>いたた、じょ、冗談じゃよクレア」 「笑えません!」シディルさんの発言に割と食い気味でクレアさんが突っ込みを入れていた。 確かに酷いことを言っていたが、クレアさんの突っ込みも割と容赦ないな。これは恐らくだが今回だけでなく普段からこういうやり取りをしていそうな気がする。「やれやれ、冗談はさておいてじゃな、そのハイドキャットの子を調べさせて欲しいのじゃよ。もちろん危害を加えるようなことはせんと約束しよう。わしの研究室で映像記録や魔力波を通しての生体情報の採取などをさせて欲しいのじゃ」 「なぜわざわざ俺達に?シディルさんなら俺達に頼らずともそれこそ他から連れて来て貰うこともできるのでは?」 「ふむ。お主はその子の価値を見誤っておるようじゃの。現在、わしの知る限りで世界にハイドキャットを人が使役している例は2人だけじゃ。もちろんその2人にも交渉は試みたのじゃが、断られてしまったのじゃ」世界中でたった二人!?確かに珍しいとは聞いていたが、そんなレベルとは完全に予想外だった。あの時クロヴさんは怪我したロシェを割と平然とした顔で連れて来ていたし、従魔登録を担当したギルド職員さんも驚いてはいたが平然を装って仕事はしていたので、普通に
「初めましてじゃな。私はこの学園の学園長をしておるシディルじゃ。孫が世話になったようじゃの」今日は割り込みの多い日だなと思いつつ、俺達も三度目の自己紹介をする。「それで俺達に聞きたいことというのは?」 「うむ。お主達もここでは都合が悪かろうと思ってうちに誘ったのじゃ。聞きたいことというのはその子のことじゃよ」そう言ってシディルは何もない空間を指さした。いや、正確にはロシェが居る辺りを指さしている。 この人もロシェに気づいている?と思ったところでロシェの気配が右の方に移動したのが分かった。すると、シディルさんの指もそれを追うように動いていく。 やはり気づいている。ロシェも確認のために動いてくれたのだろう。 そうなると、話というのは何だろう?学園内にロシェを入れたのがまずいということはないと思う。他にも従魔を連れた客は居たのだ。姿を消していたことの注意とかなのだろうか。まぁ強制的に連行しようとしていないので敵意があるわけではないだろう。ここは素直に従ったほうが良いか。「分かりました。ご迷惑でなければお邪魔させて下さい」 「うむ。誤解なきように言うておくが、お主らを咎めたりするつもりはないのじゃ。単にわしの興味本心から招待しただけじゃから、そんなに警戒せんでくれ」・・・それならそうと最初に言って欲しかった。いや、まだ完全に信じて良いのかは判断できないけども。「ねぇ。その子って何のことなの?」 「わ、私も気になります!」と、そこでクレアとスフィリムの二人が何の話か分からないと質問してきた。 周りを見回してみると大会が終わったことで人もまばらになっている。 これならそんなに騒ぎになることもないか?「実は姿隠で隠れている従魔が居るんだ。今見せるから騒がないでくれよ。ロシェ姿を見せてくれるか」 『なんだか自信が無くなってくるわね。今まで例の獣以外には見つかったことなかったのに』そうぼやきつつロシェが姿を現した。俺やカサネさんが壁になってなるべく他の人に見えない様にはしたが、気づいたらしい一部の人が動揺した声を上げていた。「この子
個人戦は一人でのパフォーマンスになるため、やはり複数属性を扱える学生が多かった。チーム戦ほどの派手さはなかったが、一人で複数の属性を操ってパフォーマンスを行う技量の高さはなかなか見ごたえがあった。 そうこうしているうちに例の彼女クレアの順番が回ってきた。「さぁ、最後は学園きっての天才魔導士の登場だーー!!」司会の男性がテンション高めにクレアの登場を告げる。(彼女そんなにすごい魔導士なのか・・・)呼ばれたクレアは何故か申し訳なさげにしながら登場して一礼してからパフォーマンスを開始した。 それを見た俺は彼女が天才と呼ばれたことに納得しつつも、さらに驚かされることになった。彼女は火・水・風・土・光・闇の6属性全てを使いこなしていたのだ。 火で円形のリングを作り、その周りに光と闇で影の観客席を作り、生み出した水から水のゴーレムを、地面からは土のゴーレムを作り出して、風が音声機の声を俺達の耳に届けた。 出来上がったのは影の観客たちが歓声を送る中、水と土のゴーレムがリングの中央で力比べをする舞台劇だった。「これを・・・一人で・・・?」 『確かに、これはレベルが違うわね。何故か本人は自信なさげにしているけど』カサネさんは同じ魔導士として驚嘆していた。それはそうだろう、彼女の4属性持ちでも希少だというのに、全属性を持つだけでなくこれだけ巧みに操っているのだから。 気になるのはロシェの言う通り本人の様子だった。ものすごいパフォーマンスをしているというのに当の本人は自信なさげというか申し訳なさそうにしているのだ。(もしかすると、この大会への出場は本人の意思ではなかったのかもしれないな)他の人達は殆どが舞台劇の方に目を奪われていて彼女の方は気にしていないようだ。劇は最終的に力で押された水のゴーレムが火のリングに足を踏み入れたところで足が蒸発してしまい、バランスを崩して場外負けという形で終わりを告げた。クレアが再び一礼して舞台袖に消えると、盛大な拍手が送られた。 個人戦の勝者は決まったようなものだろう。他の子達のパフォーマンスも良かったが正直レベルが違い過ぎた。
街の広場を色々見て回っていると時刻も夕方に差し掛かる頃になっていた。 幾つかの取引もできて出店を満喫したところで今日は帰ることにした。 カサネさんも魔道具や本などをいくつか購入していたようだ。ミルドさんの家に戻るとエフェリスさんが今日も美味しい食事を用意してくれていた。どうやらお店も去年より盛況だったらしく一日でほぼ売り切れたため、明日は家族で学園祭を楽しむことにしたらしい。次の日、ミルドさん達と一緒に魔法学園まで向かいミルドさん達は先に出店を回るということでそこで分かれることになった。 俺達は予定通り、魔法練習場に向かうことにした。 塔まで歩いて行くと20人程の列ができている。塔を使えるのは一度に10人程度らしい。「細長い塔ですね。これでどうやって上まで行くんでしょう?」 「なんらかの魔法なんだろうけど、俺にはさっぱりだな」 「そういえば人数制限があるみたいですけど、ロシェさんはこのまま乗れるでしょうか?」・・・た、確かに。考えてなかった。どうしよう。『考えてなかったって顔ね。気にしなくていいわ。私は先に上っておくから』そういうと、ロシェの気配が俺から離れて山の上の方へと離れていくのが分かった。自力で登っていったらしい。流石だ。「もう山の上まで行ったみたいだ。早いなぁ」 「かなりの急勾配ですのに。流石ロシェさんですね」話しているうちに俺達の順番が回ってきた。 塔の中に入ると、何もない丸い空間で床には魔法陣のようなものが描かれていた。 塔の管理をしている人が「起動しますので動かないでください」と声を掛けて、壁際に合ったパネルのようなものに触れると、一瞬視界がぶれて次の瞬間には先ほど入ってきた入り口が無くなっていた。「え?」 「到着しました。出口は反対側です」言われて反対側を見ると確かに入り口と同じ扉が開いていた。 俺達以外にも数人が驚いた様子を見せながら出口から出て行く。恐らく初見かそれ以外かの違いなのだろう。「何が起きたのか全く分かりませんでした。流石は魔
魔法学園の学園祭だけあって、出し物は魔法を絡めたものが多かった。 教室に暗幕を掛けて光の魔法でプラネタリウムのようなものを見せたり、 冷気で快適な温度に設定された喫茶店なども休憩所として好評な様だった。「学生ごとに違った発想で出し物を考えていてすごいですね」 「あぁ。中には当日楽をする狙った展示物の様なのもあったけど」 「ふふっ。確かにあそこは受付の学生さん一人だけでしたね」などと出し物の感想を話しながら歩いていると、ドン!と右側から何かがぶつかってきた。「あいったたた・・・あ、ご、ごめんなさい」 「あぁ、いやこちらこそ。大丈夫か?」ぶつかってきたのは学生の女の子だった。走っていたうえ、ぶつかったのがちょうど曲がり角だったため避けられなかったらしい。「は、はい。全然大丈夫です。すみません。急いでいるのでこれで」そう言うと、彼女はこちらの返答も待たずに行ってしまった。「随分急いでいたみたいですね」 『・・・これ、さっきの子が落としたんじゃない?』ロシェがそう言って指さした先には革製の薄いケースのようなものが落ちていた。拾って見てみるとどうやら学生証らしい。先ほどの女の子の顔写真も載っていた。名前はクレアというらしい。「そうみたいだな。どこに行ったか分からないし、落とし物として案内所にでも届けるか」 『これだけ人が多いと気配を追うのも難しいし、それが無難でしょうね』ということで、多少寄り道しつつも案内所に学生証を届けると時刻は昼過ぎになっていた。近くの出店を見ていたカサネさんのところへ戻ると、男子学生と何やら話しているようだった。「お姉さん一人?実は俺も友達にドタキャンされちゃってさ、良かったら一緒に回らない?」 「いえ、連れが居るので」ナンパだった。ほんとに一人でいると良く声を掛けられている。こういう場だとなおさらかもしれない。ともあれ、カサネさんの機嫌がこれ以上悪くなる前にさっさと合流したほうが良いだろう。「お待たせ」 「あ、おかえりなさい」 「ちっ、ほんと
翌日、起きて一階に降りるとミルドさん達は既に家を出るところだった。「おはようございます。もう出るんですか?」 「おはようございます。えぇ、書置きを残しておいたんですけど、朝食は作っておいたので食べて下さいね。予備の家の鍵も置いてます。返却は今夜で構いませんから」 「え?今夜もお世話になっていいんですか?」 「え?・・・あぁ。そういえば言ってなかったですね。学園祭は明日まであるんですよ。ですので、もし急ぎでなければ明日も楽しんでいってください。今日とは違うイベントなどもあるみたいですよ」確かに昨日の話では何日間あるのかは聞いてなかった。 折角こう言ってくれていることだし、もう一日お世話になろうか。「そうだったんですか。急ぎの用はないので、もう一日お世話になります。何から何までありがとうございます」 「いえいえ、それでは行ってきます」挨拶を済ませると三人は荷物を持って家を出て行った。 少し遅れて起きてきたカサネさんと朝食を頂いてから家を出て、まずは学園の方に向かってみることにした。通りがかりに見てみると街の広場も既に賑わいを見せているようだ。「朝から結構にぎわってますね」 「あぁ、こっちは主に学園祭で集まってくる人をターゲットにした商売だな。本来なら商人の俺はこっちに混ざるべきなんだろうけど、まぁ今日は休日ということで学園祭を楽しむことにしよう!」 「ふふっ、変に拘っても気になって集中できないかもしれませんし、良いと思いますよ」 『あなたのスキルは割といつでもお祭りに近いと思うけどね』ロシェッテが呆れたようにそう言った。 確かにレベルが上がったおかげなのか、最近は店を開けば通りがかった人の何割かは何かしら買ってくれるし、旅の途中ですれ違う人達から取引を持ち掛けられることもあるのだ。「つまり普段から働いているわけだし、休んでも問題ないということだな」 『はいはい、そうね』そんな話をしながら学園へ向かう。学園が近くなるにつれて人が増えてくる。 やはりこちらがメインなだけあって集まっている人の数も段違い
「楽しみにしてます!」 「それじゃ、部屋に案内するよ。こっちだ」ミルドさんが抱えていた荷物を近くに置いて俺達を部屋に案内してくれた。 俺達はエフェリスさんに一礼してからミルドさんの後を付いていく。「こことその隣が空き部屋だ。掃除用具とかはあそこの籠の中にあるから好きに使ってくれ」ミルドさんが案内してくれたのは二階にある突き当りの部屋だった。「ありがとうございます。あと、学園祭のこと後で教えて貰っても良いですか?俺達基本的なこともよく分かってなくて」 「あぁ、構わない。夕食の時にも話題になるだろうから、その時に説明しよう」 「分かりました。お願いします」 「それじゃ、悪いが掃除の方は頼んだ。俺は準備の方を手伝ってくる」そう言うとミルドさんは一階に戻っていった。 部屋を開けてみるとどちらの部屋にも最低限の家具は置かれてあった。元は客間か誰かの部屋だったのだろうか?ただ、やはりしばらく使われていなかったようで、それらの家具は埃を被っていた。「それじゃ、美味しいデザート、いえ食事のために頑張りますか!」 「あ、あぁそうだな」カサネさんがいつになくやる気だ。こんなに張り切っているのを見るのは初めてかもしれない。よほどコロンケーキが楽しみらしい。 そうして夕食前までは各自で部屋の掃除を済ませた。 掃除を済ませて一階に戻ると、キッチンの前に知らない男性が立っていた。「ん?おぉ、あんたらがミルドの連れてきたお客さんか。俺はあいつの父親でカイゼルってんだ。よろしくな」俺達もカイゼルさんに挨拶を返すと、席に着くように勧められた。 言われた通り席に着くと、エフェリスさんが食事を並べてくれた。「お掃除お疲れ様でした。さあさあ食べて下さいな。コロンケーキはデザートでお出ししますね」エフェリスさんが振舞ってくれた料理はどれもとても美味しかった。 デザートだけでなく食事までごちそうを用意してくれたようだ。「とても美味しいです」 「お口にあったようで良かったわ」